両親の記憶

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事故から数日後。 無言の帰宅をした両親の遺体は・・・白い布に覆われていた。 その布をめくって両親の姿をみた姉は、息を詰まらせると後ろにいた僕に見ないよう言い聞かせた。 親戚の大人の話では・・・両親の遺体は原形をとどめていないくらいに焼けただれた姿だったらしい。 数日前まで、僕を慈しんでくれた両親の体は・・・もう動かない。 まるで、異質なもののように感じられた。 幼心に僕はその遺体に恐怖をおぼえて近づくことさえできなかった。 姉と親戚のおじさんたちが整えた葬儀はしめやかに行われ・・・僕の両親は荼毘に付された。 火葬場の煙を見上げながら、姉が言った。 「私と奏だけになっちゃったね。」 「おねえちゃん。」 1週間泣きはらした姉は、葬儀のとき一度も涙を流さなかった。 不安で涙ぐむ僕の手を強く握って、守るようにずっと姉は僕の隣にいた。 僕が6歳、姉が18歳。空が高い秋の晴れた日、僕と姉は二人きりになった。
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