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「奏、今日もお姉さんのお手製弁当?」
一般的に良家のご子息が通うこの学校では学食でランチが当たり前なのだけれど、経済的な理由もあって、僕は姉の手作り弁当を教室や屋上なんかで食べていた。
奨学生というのが珍しいこの学校で遠巻きにされがちな僕に屈託なく話しかけてきたのはクラスメートの北条雅美。
有名な北条財閥の次男らしいけれども、ほかのクラスメートとは一風変わった雰囲気をまとった彼は不思議な存在だった。
「雅美。そうだけど・・・。」
「卵焼き、ひとつ頂戴。僕、響さんの卵焼きのファンなんだ。」
くったくない笑みでそういわれるものだから、僕はお弁当箱を差し出した。
それを一つつまむと、雅美は口の中に入れて「おいひー」といった。
「雅美、ランチにいったんじゃなかったの?」
僕の問いかけに、雅美は手に持っていた紙袋をひらいて言った。
「ランチはパンにしたよ。高等部の購買にいってツナサンドとチーズバーガー買ってきたんだ。響さんのから揚げと、ツナサンド一つと交換してよ。」
僕のお弁当箱のふたにツナサンドを上げると、雅美は姉さんが今朝あげたから揚げを取っていった。
僕の許可を待たずに持っていくのには閉口してしまうけれども、いつも有言『即』実行な雅美の行動は慣れていたので、僕は素直にそれに応じることにした。
「お肉柔らか~い!さすが、響さんだね。」
調子のいいことを言いながら、もう一つ手を伸ばそうとする雅美の手をパシンとはたいた。
「僕の分がなくなるよ。」
ため息をついてそういうと、かわいらしい顔で口をとがらせて雅美は「ちえ~っ」と呟いた。
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