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アヴェルが目を覚ますと、真っ白な部屋にいた。
アヴェル「ん?」
左腕には輸血パックからのびる針が刺さっている。
針の刺さっていない右腕の方を見ようとするが
アヴェル「あれ? 見えない」
視界の右側が見えなくなっていた。
アヴェル「えっ、と~」
右腕を上げようとするが、感覚が全くない。
アヴェル(あぁ、そっか。目も腕も、もう無いんだ)
そう思うと無性に悔しく、悲しくなってきた。
アヴェル「っ! ちくしょう!!」
握り締めた拳でベットを殴り、唇を噛みしめる。
コン、コン
小さなノックの音と共に、白髪の男が入ってきた。
アヴェル「お父さん……」
ジオ「具合はどうだ?」
ジオは心配そうにアヴェルを見る。
アヴェルには、母親がいない。アヴェルが5歳の頃、病死したのである。
アヴェル「大丈夫だよ。けど……」
表情を暗くし、目を閉じる。
アヴェル「腕も目も…無いんだ。それに……」
ジオ「それに?」
急かすことなく、優しく問う。
アヴェル「感じないんだ……魔力を……」
ジオ「なっ!?」
魔力を感じない、つまり魔力が無いということになる。魔力が無い、と言うことは生きていないと言うことになる。
魔力は、生きている限りどんな生物にもあるものなのである。
アヴェル「お父さん。僕は、この家を出ます」
ジオ「な、何故だ!?」
ひどく狼狽えるジオだったが
アヴェル「魔力が無くなった僕は、もはや王族ではありません」
ジオ「………」
アヴェル「今の僕では、王族に名を連ねることは、ここにいることは出来ません。ですから…」
ジオ「もういい」
低い声でアヴェルの言葉を遮る。
ジオ「たった今、我が息子は死んだ。どこへなりと行くがいい」
ジオはそう言って病室を出ていった。
アヴェル「ありがとうございます……!!」
閉まったドアに向かって頭を下げ続けていた。
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