プロローグ

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――桜の枝を折った。 小学校の低学年の頃だと思う。 家族でお花見に来ていたボクは、その行為が桜を酷く傷付けるものだとは知らなくて……ただ、満開の桜から離れるのが名残惜しくて……それだけの理由で、折った。折ってしまった。 ――結果は、凄惨たるものだった。 枝を折ったボクも、一緒にいたキミも、それぞれの両親からこっぴどく叱られたっけ。 ボクは、自分が怒られた事もショックだったけど、それ以上に……なんにも悪くないキミが怒られたのが腹立たしくて、申し訳なくて……確か、号泣してしまったと思う。 そんなボクに、昔から優しかったキミは困ったように笑って。 「え、えっと……そうだ!わたしがいつか、桜をプレゼントしてあげる!だ、だから泣かないで、ね?」 優しい笑顔に、心があたたかくなったのを今でもボクは忘れない―― ――ソレが、彼らの原風景。 まだ幼かった二人の、筧 裕哉と星明 紗英の交わした、拙くあどけない約束だった……
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