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約束の向こうへ
「……ん、……て、……」
声が聞こえる。あと、身体がユサユサと揺らされている。
「……裕哉くん、……きて……」
ゆうや?自分の名前だ。うん、俺の名前。マイネームイズ裕哉。
「裕哉くん……起きてってば……裕哉くん!」
声が大きくなる。どうやら、俺は起こされてるらしい。まぁ、最初っから分かってた事だが。
――さて、いい加減起きてやらないと泣くよな……多分。昔っから、泣き虫なとこは変わってねぇもんな、コイツは。
「――はいはい、起きてますよっと」
身体を起こして、伸びを一つ。机に突っ伏して寝ていたんで、伸びとかたまらなく気持ち良い。
「……うぅ、おはよ、裕哉くん……」
そして視界に入ってくる、お疲れモードの紗英の顔。
「む、どうした紗英、随分疲れているようだが」
「うぅ、どうしたの、じゃないようっ!裕哉くんってば、起こしても全然起きてくれないんだもんっ!」
「いや、しかしだな紗英、俺の名前を間違えて呼んでいるお前にも非はあるはずなんだが」
「授業終わったら起こしてって言ったの裕哉くんなのに……って、ふぇ?名前?」
「あぁ、実は俺、アメリカ人なんだ。英語とかマジペラペラ。オゥ、マイ、ネーム、イズ、ジョン。アイ、ライク、寿司」
「って、すごいカタコトだよぅ!そ、そんなんじゃ、騙されないんだから!」
……じゃあ、仮に俺が本当に英語ペラペラだったら騙されるのか、お前は。
「まぁ、それはさておきメアリー」
「私の名前まで変わった!?紗英だよ!さ・え!」
「すまん、間違えた」
「うぅ、どうやったら国籍まで間違えるのかなぁ……?」
「うむ、すまんヒポポタマス」
「なにその変な言葉!何語!?」
「英語だよ。カバの英名」
「ぇ……?あ、そ、そうなんだ?」
「あぁ、そんなわけでスマタポポヒ」
「むぅっ、バカって言いたいのかな!?カバの反対って言いたいのかな!?」
「まぁまぁ、そう怒るなよシャエイ」
「サエだよ!捻った読み方しないでよ紗英を!」
「チ……イチイチ細かい奴だ」
「こ、細かくないもんっ!うぅ、裕哉くんのバカァ!」
「あ、悪い紗英。俺、もうバイトだから行くわ」
「え?あ、うんっ!頑張ってね……って、私あしらわれっぱなしだよぅ!」
涙目になる紗英。……むぅ、少しからかいすぎたか……
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