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「――紗英、途中まで一緒に行こうぜ?」
「……いいのっ?」
「何を今更……いっつもそうだろ」
「そ、そうだけど……裕哉くんが誘ってくれるなんて、滅多に無いから……嬉しいなって」
「そうか?そんなつもりは無かったんだが……」
言いつつ、席を立って教室の出口へと向かう。んで、俺の後ろをチョコチョコ歩きながら紗英は少し不満そうに口を開く。
「ん~……裕哉くん、高校入ってから変わったよね?」
「変わった?どこが?」
取り分け自覚は無いんだが。
背は中三時点の175から変わってないし、性格だって人間そう簡単に変わりゃしない。
「だって……裕哉くん、去年まで学校終わった後は私と遊んでくれてたのに、今年になってからバイトバイトって全然構ってくれないんだもん」
……その拗ねたような口調と内容に、若干鼓動が早まった気がした。
「は、何だよ紗英。俺と遊べないのがそんなに寂しいのか?」
昇降口。二月初めの冷たい空気の中で、白い息と共に軽口を吐く。
いつもの、下らない冗談だ。
当然紗英だって、――そ、そんな事ないもんっ!なんて言いながら、顔を赤くするに決まって――
「……うん。寂しいよ、裕哉くん」
「っ……!」
予想は、半分だけ当たった。
俺の予想通り顔を赤くした紗英は、けれど俺の予想と違う言葉を口にする。
「そ、そうか……」
どうにか発した言葉は、我ながらぎこちない。
――あぁ、とっくに分かってる。気付いてる。
紗英が、俺にどんな感情を抱いてるのか。そんなの、とっくに知っている。
そして、紗英も多分……俺の気持ちに、気付いてる。
でも、俺はその気持ちに――俺の我儘でしかないのは分かってるけど――今は、答える事が出来なくて。
「――俺のバイトさ、もうすぐ終わりなんだよ!」
努めて明るく、言った。
重たい沈黙も、甘い葛藤も、その全てを打ち消すように、言った。
そして、紗英もそれを察してくれる。合わせてくれる。
「わ、そうなんだ?じゃあ……」
期待した目。餌を前にした子犬を連想してしまう。
「あぁ、三月末くらいまでかな?だから、そしたらどっか遊びに行こうぜ」
俺の言葉に、紗英は満面の頷きを返してくれるのだった。
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