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――学校から紗英の家を経由し、俺のバイト先に行くまでにはそこそこ時間がかかる。
「……ねぇ裕哉くん、ちょっと聞きたいんだけどね?」
その道すがら。ちょっぴり改まった様子で、紗英は小首を傾げる。
「ん、どした?」
「うん、あのね?裕哉くんって、高校生になってすぐにバイト始めたよね?」
「あぁ、だからもうすぐ一年だな」
けど、それがどうしたんだ?
「んとね?その……裕哉くん、どうしてバイトしてるのかな、って」
……どうして、か。
「あのな、紗英。バイトする理由なんて、一つしか無いだろ?」
「うん……うん?」
「首傾げんなよ、金に決まってるだろ?」
そう、バイトをする理由なんて一つ、金だ。少なくとも、世間的には間違っちゃいない。
……間違って、無いはずなんだが。
「ん、ん~、そうなんだけどね?裕哉くんって、そんなにお金好きな人だったかなぁ?って思うんだけど……」
……相変わらず、俺に嬉しくないところばかりで鋭い奴だ。
けどま、今更本当の事も言えんしな……嘘は貫いてなんぼだろう。
――ってなわけで。
「馬鹿、お前、金とか大好きだぞ、俺は。世の中金だろ、金!」
「……ん~、少なくとも私の知ってる裕哉くんは、お金より愛とか言う人だったはずなんだけど……」
……いや、ちょっと待て。
「待て待て、お前いつの話だそりゃ?」
……まぁ、本音を言えば金にそこまで執着しちゃいないが、だからって、そんな恥ずかしい事言うような奴でも無いんだが?
「ん~……裕哉くんが、小学生位の時かな?」
「昔過ぎるだろ、そりゃ。いくらなんでも、変わって当然だ」
「うぅ……女の子向けの魔法少女アニメのヒロインに真剣に憧れていた裕哉くんはどこに……」
「んなもん、小学生の高学年には卒業してたよ」
……やれやれ、どうにかバイトの事から話が逸れてきたか……
そう、安堵した矢先。
「――あれ?裕哉ちゃんに紗英ちゃん?」
前方から、どこか紗英に似た快活な声。
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