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俺が反応するより早く、紗英がトコトコ近寄っていく。
「お母さんっ、買い物行ってたの?」
「うん、晩ご飯のおかずを買いに。今日は、ボクのお手製コロッケだよ?」
――ボクという一人称の可愛い女性――紗英のお母さん、遥さんに、俺も遅れて挨拶する。
「こんにちは、遥さん」
「うん、こんにちはっ。いつも紗英を送ってくれてありがとね?」
「いえいえ、道すがらですから」
「ゆ、裕哉くん?それって、方向が違ったら送ってくれないって事なのかな!?」
「……さあ、どうかな?」
「うぅ~!お母さんっ、裕哉くんがイジメる~!」
……そんな会話をしている内に、紗英の家の前までやって来た。
「――よし、じゃな紗英。遥さんも、また」
「うんっ、バイト頑張ってね!」
「またね、裕哉ちゃん♪」
紗英と遥さんに見送られ、バイト先――『水戸瀬(みとせ)神社』へと向かう。
脳裏にふと過ぎるのは、さっきの紗英との会話。
「――何でバイトしてるのか、ねぇ……」
ハァ、と口から洩れたのは、溜息なのか苦笑なのか。
「誰の為にバイトしてると思ってんだよ、ったく……」
呟きを落としながら、俺は水戸瀬神社の境内に繋がる階段を昇るだった……
*
「また来たのか、小僧」
境内に入った俺を迎えたのは、この水戸瀬神社の神主――威厳たっぷりのオーラを纏った老人、水戸瀬 徹(とおる)その人だった。
俺の父親が過去に世話になった事があるらしく、俺の家族と徹さんはかなり古い付き合いである。
「また来たのって事は無いだろ?バイトなんだ、ちゃんと来るさ」
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