8628人が本棚に入れています
本棚に追加
「裕ちゃんの肉体を観察してました」
指先をビシッと伸ばし、額辺りに当てて敬礼のポーズ。そして空いている右手には双眼鏡。
こいつ、幼なじみである植本紫音(うえもと しおん)は制服姿で俺の目の前にいる。
こんなに近くで双眼鏡はいらないだろ。
「いつからいたんだよ」
「裕ちゃんが起きる十分前くらい。あたし、一人でずっとここにいて寂しかったんだからっ!」
と、間髪入れずに飛び付いてくる紫音を華麗にかわす。そのくらいの行動はおみとおしだ。
俺はすかさず部屋の窓チェックをする。昨日はちゃんと閉めたはずの鍵が空いていた。
「うぅ、裕ちゃんが意地悪するぅ」
涙目で訴えても無駄だ。その表情に簡単に騙される俺ではない。
俺の家と紫音の家は隣同士だ。ゆえに屋根を伝って互いの部屋に行き来することが可能となる。
俺から紫音の部屋に行ったことはないけれども。
一歩間違えれば(すでに間違えているが)犯罪となる行為を平然としてしまうのが植本紫音である。
最初のコメントを投稿しよう!