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一
「おはようがざいます。ちちうえ」
「おや、おはよう。今日も早いね」
早朝の清漢宮に小さな子どもの声が響く。幼子特有の響きを伴って。
この家の人たちはみんな朝が早い。一人の例外を除いて。
その一人はたいていどこかをフラフラうろついていて、この家に帰ってくることは滅多にない。
そして朝起きるのも遅く、だらしない。
「りこう兄さまを、おこしてきましょうか?」
「そうだな。ではお前に任せるとしよう」
「はい!!」
元気な返事を残してその子どもは燕寝へと走っていった。
「ああ、また走廊を走って。まあ、元気な証拠だからよいか」
牀榻の扉は堅く閉ざされていた。やはりこの堂室の住人は眠っているようだ。
無理矢理その堂室の扉を開けると、臥牀で丸くなっている兄に思いっきり飛びついた。
「兄さまーーー!!あさだよーーー!!おきてーーー!!」
そう言って衾をはぎとり、窓を開ける。
衾を剥がされ、丸裸の利広の顔に、朝の湿気を含んだ空気が刺すように冷たい。
「ーー。もう少しだけ・・・もう少し・・・」
「だめーーー!!いますぐおきてーーー!!」
「・・・後で遊んであげるから・・・」
「じゃあ、いまからがいいーーー!!」
もう少し粘ってみるが、どうやら懐柔策は失敗に終わったようだ。
それを悟った利広はもそもそと起き上がった。
「ねぇーー、何してあそぶーー?」
「それは、秘密さ」
そう言うと彼はクスクスと笑った。
「えー、ズルイーー」
「お楽しみは後にとっておく物だろう?さあ、朝餉を食べに行こうか」
そう言うと不満な顔をしている蒼黎の手を握って歩き出した。
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