終わりと始まり

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オレはよく人に言われる、『鈍感』だと。たまに自分でも自覚してしまう程に。 「ハアッ…!」 だからと言って何かに敏感な訳ではないが体は必死に逃げていた。頭で考えるより、まるで何度も練習してきた事が自然と出たかのように。呼吸を忘れるくらい。 何故だ、こんなにも息が切れるくらい必死で走っているのに 距離が縮まらない気がするんだ?なんでオレは黒野さんがこんなにも―――― 「聞き耳立てちゃダメって言ったよね?」 ――――怖いんだ? 「異物は取り除かないとね」 オレは疾走する最中、不気味な一言に首だけを後ろに向ける。すると黒野さんは立ち止まり、手のひらで窓ガラスを触れた。触れた手のひらを離そうとすると窓ガラスはギリギリと悲鳴のような音を立てる。最後に引きちぎれるような音を立てると不自然に空間のできた窓ガラスの代わりにその手には透き通ったナイフが握られていた。黒野さんはそれをこちらに向けて―――オイッ! ――ヒュオッ! 「うわああああ!」 ナイフはオレの目のすぐ隣を通過して行った。ってふざけんなあああ!こんなの解説なんかやってられっかあ! そして廊下を曲がって階段を降りようとした瞬間、突き当たりの壁にナイフが当たって四方八方に砕け散った。まるで花が花粉を吐き出したかのように無数の透明の凶器は襲いかかる。 「ぐっ…!」 一瞬、硬直してしまうが体を右に投げて体を階段にぶつけながら降りる。しかし、思っていたより階段の段数は多く全身の痛みを増していった。階段が終わった頃には体を丸くする力もなく、ただ重力と慣性に従って体が廊下を転がるだけだった。 「…っで」 口の中に鉄の味が広がり目の前が霞む中、『それ』は何の躊躇いもなく目標を見据えたかのように近づいてくる。飛散したガラスの屑を踏みしめる音はオレの耳元で止まった。
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