終わりと始まり

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「やっと捕まえた♪」 ナイフの何本かは急所を外して腕や足に突き刺さっていた。オレは頭を垂らせて見つめる床には血液が滴る。視界が霞み、体の痛みもどの場所が痛むのかすら分からない程に麻痺してきた。色んなものがハッキリしなくなった代わりにオレの中で一つ確定したものがあった。 「でも簡単に殺しちゃったらつまんないもんね?」 「っ…!」 足に突き刺さったナイフを掻き回すように動かされ声にならない声が喉の奥から何かが千切れたかのように出される。足全体に一気に広がり、刺激された痛覚神経により微睡んだ意識は再び覚醒する。足に全神経が集中するがオレは蚊の無くような声で言葉を紡いだ。 「お前は……何も分かってない…」 「?」 「とぼけた面してんじゃねぇよ。オレは黒野さんじゃなくて『お前』に言ってんだ」 何を怖れていたんだオレは。誰よりも近くで見てきたじゃないか?何よりも明るくて暖かい心がそこにはあったじゃないか?それがオレの想っていた黒野さんだろうが。 「黒野さんは絶対オレを張り付けになんかしない。もしお前が本当に黒野さんだったとしてもオレはお前を黒野さんと認めない」 オレはオレを許さない。一回でも疑ったオレを。そして―― 「そうかい、この姿で殺されるのが一番幸せだったろうに」 ――お前だけは絶対に許さない。 次に瞬きをした時には黒野さんの姿はなく、そこには薄汚いローブを身に纏った男が佇んでいた。髪の毛の殆どが抜け落ちたのだろうと思わせる頭、青白い顔には所々に染みと長い鼻が特徴。ひどく急な曲線を描いた猫背。そして他の人と決定的に違うものはローブから見え隠れする全身に浮かんだ火傷の傷と獣の如く血走った双眸。そいつは今、爬虫類のような長い舌をナイフの上で走らせながら不気味に笑っている。 「お前背中にビッグマックでも入ってんじゃねーの?背中はちゃんと伸ばせって昔、親に教わらなかったか?」 「クックックッ」 はい、そーですか。オレの話は無視ですかこのウンコヤロー。オレはこの排泄物ヤローに聞いた。 「なんでオレを狙う?」 その言葉に反応したようだ、廊下で脱糞ヤローは口の端を吊り上げ、歯を軋ませながら言葉にした。 「テメェの親父にはデケェ借りがあんだよ」 知らねーよ。親父にでっけーカリがあるとか聞きたくねーよ。え、もしかしてこれパンツにちょこっとついてない?野郎が。
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