終わりと始まり

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「ここでマリーアントワネットはある有名な台詞を言ったんだが…。おいマルカワ!今の問題はなんだ!言ってみろ!」 確実に混沌へと向かっていた意識の中でそれは呼び出される。徐に顔を上げると目の前には見た目、頬に刀傷が一、二本ありそうな厳ついおっさんの顔が黒板の前で構えていた。そしてこの加齢臭とポマード臭と口臭が織り成すハーモニーが教室を包み込んでいた。 「パンがなくてもあいつなら…三井ならきっと何とかしてくれる」 答えて再び顔を伏せようとした瞬間、光の速さで耳を引っ張り上げられた。 「うぉおおい!寝るなああ!惜しくないよ!全然ッ惜しくない!なんの解決にもなってないよ!てか三井って誰だよ!別にそんな燃える展開期待してないよ!パン食いてぇんだよ!」 「寝るんじゃない、これは気絶だ」 「わしの歴史の授業のどこに気絶する要素があるんじゃあ!」 ギラつく目がオレを捉えている。こいつアレだよ。はだしのゲンとかで歴史に目覚めたタイプだよ。くやしいのう。 「見ろ、生徒の何人か既に死んでいる。それは先生が無想で放出しているハーモニーが……ああ…く…臭っさあああああ!」 「途中までオブラート包んでたのに我慢できなくて言っちゃったよコイツ!ちっくしょう!」 見た目の割にピュアなハートに傷ついた先生は教室のドアを乱暴に開けていくと目から出る汗を押さえて駆け出していった。ついでに教室に残ったこの強烈な臭いもエスコートしていただきたい。 キーンコーンカーンコーン そして授業を締めくくるもとい、学校を終える鐘は今、鳴った。オレはカバンに荷物を詰め込み、身仕度を済ませる。 「よし」 目だけをキラリと光らせて立ち上がろうとすると生徒の一人に肩を押さえつけられ、阻まれた。 「よしじゃねぇよマルカワ。今日の教室掃除の当番はお前だ」 「オレの名前は円川‐マドカワ‐だ。マルカワとかいう十円ガムみたいな名前の奴は知らん」 「みんなマルコを押さえろ!」 オレの名前は『円川燿‐マドカワアキラ‐』、愛称はマルコ(どうせならアッキーラとかが良かった)。先生は愚か生徒ですら真の名前を覚えてはくれない学校にいる中学二年生。これを誰に説明したいのかはよく分からん。今、理不尽な状況にある。 「くっ…!全員で卑怯だぞ」 そして教室のど真ん中で恥ずかし固めまでされて取り押さえられる必要性などあるのだろうか。
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