終わりと始まり

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嫌な顔を一つもせず張り付けにされたオレを解放してくれる黒野さん。自分の服から画鋲が一本、また一本抜けていく毎に優しさが伝わってきた。誰にも邪魔されたくない優しい時間。こうして毎日、張り付けにされているのは黒野さんに優しくされたいからだとかそうじゃないとか。以前、このような事でオレはケガをした時があった。なんか鮫島が興奮して貧血気味のオレの首にドラゴンスクリューとかしてきたらしい。もう貧血とか全然関係ないけどね。技名の一部にドラゴン入っちゃってるもの。その時、黒野さんにつけてもらった絆創膏は夕ご飯として美味しく振る舞われたとか、やっぱり振る舞われていたとか。 「マルコ君、痛い所とかない?」 過去の良き思い出に浸っていると前髪の隙間から心配そうに見つめてくる黒野さんの潤んだ瞳が返答を求めている。その瞳に浮かばせる滴は返答次第で彼女の頬を伝わりそうだ。そんな目で見てくるとか反則だろ…青少年非行防止的に考えて。 「だ…だだ大丈夫でゃふ!///」 「そう、良かった♪」 顔から熱がほとばしるような感覚に襲われる。むしろ確実にほとばしっている。人と二、三言葉を交わすだけでこれほどに恥ずかしくなる事など黒野さん以外では有り得なかった。だって日常で普通に会話してて『でゃふ』とか体のどの部分を締め上げられたら出るんだよ。どの部分なんだろうね?フヒヒ…^ ^大切なので二回言いました。 オレの体はゆっくりと自由を取り戻した。そして気づく。制服の風通しがいいぜ、と。 制服の上着を脱いで今まで掲示板に張り付いていた背中の部分を見ると穴が八つある。死兆星の浮かぶ北斗七星の形で。こういう事する鮫島本当に信じらんない。何の当て付けなの?何これ、バカなの?死ぬの?勝手な思い込みとか濡れ衣とかもう関係ない。鮫島だけは許さん。 そうオレの心が哀しみを怒りに変えて生きよ、と言っている時に黒野さんが制服を奪い取った。 「あっ…!」 思わず手を伸ばしてしまう。しかし黒野さんはオレに背を向けて奪った制服に何かしているのを隠している。 「はい、出来たっ」 パァッと明るい声と一緒に渡してきた制服にはさっきまで空いていた穴など一つもなかった。オレがこの時どれだけ驚愕しただろう。 「手品だから秘密だよ♪」 彼女はいたずらっぽい笑顔で言うのだ。オレはまた無垢な少女の姿に惹かれていった。
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