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多分、気にしたらいけない。手品のそういう設定なんだろう、と無理矢理自分を納得させる。そして肩にカバンを掛けて一目散に帰ってしまおうと嫌な予感を抱え、早歩きで廊下を通過し下駄箱を目指す。
《ピーンポーンパーンポーン》
急に校内のスピーカーから鳴り響いた奇妙な音に今まで加速し続けていたオレのスピードは急停止した。額からは嫌な汗がにじみ出てくる。この奇妙な音の正体は職員室にある。なんとも柔らかく、飛び跳ねそうな音であるがその実、非常にお堅い方々が奏でているとかなんとか。ここまでの描写を台無しにしてしまうと校内放送とか――
《マ・ル・カ・ワ・く~ん、今から生徒指導室に来てくださ~い》
非常にゆったりとした女性の…担任の声が我が校に存在しない生徒の名前を呼んでいるような気がする。それと一緒になぜかスピーカーの奥からほんのりポマード臭がするのだ。
《ふはははは!マルカワぁ!!今日の日をわしらの第二次世界大戦となし…ぎひゅっ!》
《――何ヲスルッ!――メキメキメキ!――チョ、オマッ!ソンナ方向ニマワシタラギャアアア!―――ウオオオオオオオオオ!――ギャギャギャギャ……パキン!―――》
あ、折れた。
《――ブツン――ええっと雑音が入りました~。マルカワ君~早く来ないと恥ずかしい秘密とか言っちゃうぞ~》
何が恥ずかしい秘密だ。エクソシストでもいるんじゃねぇかってくらいの秘密の部屋に行く方が怖いんだよ。こちとら、ご先祖様の守護霊を除霊されるのはごめんなんでね。
《早く来ないと言っちゃうわよ~》
おうおう、言ってみろ。ここまできたら何も怖くないやいと堂々として廊下を歩いていた。
《そういえば黒野さんだったっけ~》
――ぴくんっ
《ちょうど一週間前、マルカワ君ったら~誰もいない放課後の教室で彼女の机に――》
うおおおお!貴様ああああ!!
―ダダダダダダッ!
オレは校舎の階段を滑るように降りてゆく。
《それはそれは――》
うわああああああ!!やめろおおおお!!
《這いつくばるような体勢で――》
――ガッシャアアン!
「失礼します!二年B組、マルカワです!!私にとって崇高なる存在にて神に値するのは担任の大地先生ですっ!!」
まるでガラスが割れたかのような高音とともに生徒指導室のドアを開け放つ。その先で闇に溶け込みニヒルに笑う女性の姿があった。
「よかろう」
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