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「こりゃ参ったわ……」
楽園の素敵な巫女、博麗霊夢は一言漏らした。
手持ちの呪符は頼りなくなってきたし、何より相手の数が減らないという現状。
「もう三束は投げたんだけど、ね!」
新しい束を開くと、手にした呪符を闇に投げる。
何かが爆ぜる様な音の後、また闇から現れる悪鬼達。
普段の妖怪退治や異変解決に比べれば、格段に楽な仕事だった「はず」なのだ。
化生や妖精よりも密度の薄い悪鬼。
異変どころか、怪異にすら満たない「それ」は、今や立派な異変へと成長していた。
「きりがないっ」
珍しく苛立った表情で陰陽鬼神珠を放とうとする霊夢に、突如青い陰が寄り添うように現れた。
「誰!」
「困るよ、博麗の巫女」
影が声を発し、ヒトガタをとる。
例えるなら青い闇。
氷のようなペイブルーの瞳は嘲るような笑みを湛え、流れる青髪は紐で結わえて首巻きになっている。
どこか民族的な衣装に似合わない大太刀を背負った彼女は、どこまでも闇だった。
「アンタ、「何」よ」
背後をとられた霊夢は一瞬で距離を取り、威嚇する。
「そうだな……あ、青。「あおい」でいいや」
影改め、青は笑いながらそう言った。
「それより博麗の巫女、僕たちの邪魔しないでよ」
「邪魔?違うわね。アンタたちが邪魔なのよ」
霊夢は理解していた。
周りの鬼たちより一際存在の濃い、この青こそが異変の元凶であると。
「酷いなぁ。僕たちは妖怪を退治しなくてもいい世界を作りたいだけなのに」
結界だけでも随分邪魔なのにさ、と軽く肩をすくめてみせる。
「そんなの御免だわ。ただでさえ儲かってないのに、これ以上収入を減らすなんて」
「……ああ、もうそんな心配いらないさ」
青は亀裂の様な笑みを浮かべ、一瞬で距離を詰めた。
「人も妖かしも、一切の差別なく消すつもりだから」
にぃ、とひび割れる様な笑みを認識した瞬間に、霊夢の意識は鋭い痛みにかき消された。
「お休み、博麗。終わりの終わりが始まるまで。」
霊夢を殴りつけた太刀を背中に戻すと、亀裂はまた深く、暗くなった。
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