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洗髪はダメと言われていたが、どうにも血が着いてごわごわしているので、ガーゼで覆われた傷口を避けて洗った。
洗っても洗っても泡がたたずに赤く染まったお湯が流れていた。
私の血。
この血を遡ると、不倫したり浮気した先人がいたのだろうか?
私はシャンプーをいっぱい泡立てて、心も汚れた遺伝子も全て洗い流すよう丁寧に洗った。
その夜は、旦那と寝室で一緒に横になった。
旦那は、暗くなった部屋の中で
『ごめんな』
と呟いた。
『真理子は大切な存在だって分かっているのに、どうしていいか分からなくなる時がある。
何もかも、滅茶苦茶にしたくなるんだ。
…俺って、頭がおかしいのかな。』
旦那の行き先のない闇。
その言葉だけが暗闇にぽんと投げ出され、私は何も答えられずにいた。
『いつもどうして自分が暴れているのか分からない。
ダメだ、ダメだって頭じゃ思っているのに、もう一人の俺が暴れてるんだ。
それを止められない。
…病院に行った方がいいのかな。』
旦那が私を抱きしめる。
愛情を感じる力。
いま突き放した方がいいのか。
それとも許して受け入れるのか。
一瞬頭の中で葛藤し、旦那を受け入れた。
傷を舐め合うような二人。
旦那の抱擁は、私を優しく地獄の底へ堕としていく感覚を抱かせる。
やっぱり離れられない。
私をこんなに必要とする男は、きっと他にはいない。
それに、この人を理解できる人間は、この世に私だけだろう。
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