家族

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いよいよ出産が近づいて、お世話になった会社を退職した。 みんな盛大な送別会をしてくれたけど、私は帰宅時間を気にして同僚との別れを惜しむこともできなかった。 妊婦って理由があったから、二次会には参加せずに早々に帰宅。 旦那は、こういう時には飲みに出掛けない。 テレビだけ付けられた薄暗い部屋で横になっていた。 用意したつまみや食事はテーブルの上で、そのままの姿で不味そうに残っている。 その隣で嫌みっぽく、カップラーメンの食べ残しのスープが、ギラギラ私を睨み返していた。 努めて明るく『ただいま』と声をかける。 時間は夜の9時。 これだって、主役が帰れる時間じゃない。 超ダッシュで帰ってきたのだ。 それなのに旦那は、いきなり私の荷物を蹴り飛ばして 『何時だと思ってるんだ!こんな遅くに帰ってくる馬鹿がどこにいる!』 そう言って殴りかかってきた。 送別に頂いた花束が、 スローモーションで宙を舞った。 散り落ちる花が、同僚たちの顔に見えた。 とっさにお腹をかばった私の顔面に、旦那の握り拳が左から当たった。 少しよけたので、左耳を殴られた。 一瞬もの凄く左耳が熱くなって、頭が真っ白になったら キーーーン… 耳鳴りがした。 その後も、お腹以外の全部を殴られたり蹴られたりした。 どんだけ殴られたのか分からない。 いつも思うのは、こういう時、意識が飛べば楽なのにな。 きっとお腹を守れなくなるから、失神しなかったんだろう。 自分の神経の太さに感謝しながら、骨折すらしたことのない体の丈夫さを恨めしく思ったりしていた。
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