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「────ここ、か」
桜の咲く頃。
一人の少年が、目の前にある城のような大きな建物を見て、小さく呟いた。
目の前にあるのは、白亜の壁。
校舎の端から端まで行くのに、徒歩で一日はかかるという、広大なまでの敷地。
見たもの全てが思わず感嘆のため息をついてしまう程に、素晴らしい。
それだけで国宝にでもなりそうな建物だった。
この国の王都に位置するシーエルのお膝元にある、格式高い学園だ。
「……ルーチェリア魔術学園か。
ここに、師匠が……。」
少年はまたもや小さく呟くと、そっと足を進める。
暫く歩いていくと次第に喧騒が近付いてきて、少年は微かにウンザリとした表情をした。
「とうとう入学式だよなっ!
俺、楽しみで昨日は寝れなかったよ!」
「お前もか!?
実は俺もなんだよ」
「この名門魔術学園に入れるなんて、夢みたい!」
見上げる程に大きな門の前には新入生だろう、真新しい制服に身を包んだ少年少女達が、楽しそうにお喋りに興じていた。
翻るのは、マント。
この辺りでは憧れと羨みの視線を向けられる、素敵だと評判の制服だ。
黒のマントは足元まであり、その下には真っ白なシャツ。
その上から羽織られている、またもや黒のブレザー。
シャツには女子はリボン、男子にはネクタイが付けられていた。
少年は、そんな新入生達と、全く同じ恰好をしていた。
しかしお喋りに混じる気の全くない少年は、そこを静かに通り過ぎようとする。
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