第一章

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――季節は春。  まだ肌寒さを感じさせる風が、両脇の桜の木を揺すり淡いピンク色の花びらを舞い上がらせる。 「はぁ……はぁ……」  そんな中を、俺は歩いていた。聞くだけならなかなか風情のあるその道を必死に歩いていた。実際のところはたまたま両脇に桜の木が生えていただけで、その前後はなんの風情もない茶色やら朱色やら肌色やら、コンクリートだか木造だかの家々が建ち並ぶ一般住宅街を歩いていた。  そしてそれは坂道だった。  思わず1km先の頂上から、作動させるのに1500アンペア程使用しなくてはならないモーターのような勢いで転がりたくなるような坂道だった。  国道だか県道だか私道だか知らんが、何故こんなに急な上に長くしたのか甚だしく疑問だ。  日の光が足元のアスファルトに反射し、見事に俺を直射する。あぁ、暑い。地球は何をやっているんだ? オゾン層、もっとしっかりしてくれ。  なんて、暑いのに更に暑くなるような言い回しをしている今日は四月一日。只今時刻は8時半を回ったところ。さぁ、俺は何故朝っぱらからこんな坂道を上っているのだろうか。  答えは簡単、何故なら今日が入学式だからだ。  つまり、一人の男子生徒の新たな人生が今日――いやそれは言い過ぎだな。  所詮は人生のほんの一部、更に言えば三年なんてまさしくあっと言う間、それもうやむやに曖昧に過ぎてしまう。  その程度でしかない高等学校入学というイベントに我ながら子供のように期待しつつも不安を募らせるというこれまた曖昧な心情の一男子生徒の新生活が今日、始まる。  これほど遠回しに言ってはみたものの、結局のところ高校入学ってのにワクワクしてる自分がいるのがちょっと気恥ずかしく思えた。  しかしまあ、人生のほんの一部でしかないと言っても、人生のうちたった一度しか経験できない高校生活だ。別に多少浮かれても問題ないだろう、寧ろ浮かれない方がどうにかしていると言っても過言ではない。  などと、どうでもよくなくなくはないかもしれないが、あながちどうでもいいことをかなりテンション高めに考えている最中、このテンションを一気にぶち壊す予感がする軽快なステップが聞こえてきた。  振り返るのは面倒なので、そのまま歩くことにする。
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