はじめ

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というもの。どちらを答えようと悪夢になる事は無いため、一体何の為に人の夢のなかに現われるのかが世間の注目を浴びているのだ。彼自身、過去に二度ほど会ったことがある。一度目は夏の寝苦しい夜、眠りに落ちて間もない頃。突然どこからか声が聞こえ、ふと気付くとそこに椅子に座った真っ黒いローブに大きなフードを被った男と傍らでキョロキョロしている不思議な羊のような生き物が一匹いた。 「どうも。俺は夢の案内人。こっちは夢覚ましの羊。さて、君は良い夢をみたいかい?それとも自由におもむくままに夢をみたいかい?…‥。」 二度目はそれからしばらくたった、ある秋の夜。この時も真っ黒なローブと奇妙な羊を連れ、同じ質問をしてきた。違ったのはその体格と声。明らかに前回とは違う、女性の柔らかなそれだった事だ。 「今晩は。私は夢を司る者。こっちはパートナーの夢覚ましの羊。あなたは良い夢を見たい?それとも自由な夢を?…‥。」 二度とも完全に向こうのペースで話を進められ、結局訳の分からぬまま気付いたら朝。問題の夢もまともに覚えてはいなかった。かろうじて分かるのは違う夢をみたという事くらいのものだ。
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