~君の隣に~

22/33
前へ
/704ページ
次へ
「消えた?」 忽然と消えた少女。 今まで、少女が居た場所を呆然と見つめ、ミリィはしばらくの間呆けていたが、無意識にそっと自分のお腹に手を当てた時、お腹の中に宿る命が胎動したように感じられ、驚いて自分のお腹へ目を向ける。 妊娠して、ようやく3ヶ月を過ぎた頃だ。 まだ、お腹の子が動くとは考えられない。 それなのに、確かに命の鼓動を感じた気がして、ミリィは首をひねる。 と、不意に少女の事で気付いた事があり、ミリィが呟いた。 「そう言えば、あの子の名前、聞きそびれたわね」 この場にトウヤが居れば「名前かよ!」とツッコミを入れていただろうが……。 その場には誰も居ない。 静かになった屋上で、ミリィは自分のお腹を撫でながら、寂しそうな顔で夜空を見上げるのだった。 そして、場所は再びトウヤ達に戻る。 仰向けに倒れたまま、リュカとミリィの話を呆然と聞いていたトウヤは、バツの悪そうな顔で上半身を起こすと、こちらへ視線を投げかける4人を見ず、うつむいたままだ。 そんな中、トウヤとシグルド・ロキの間の空間に、突然小さな光の球体が現れたかと思うと、その球体は「パンッ!」と乾いた音を立てて弾け飛んだ。 すると、次の瞬間には、球体の弾け飛んだ場所に、両腰に手を当て、盛大にため息を吐きながら首を振るリュカの姿があった。 「ア~ア~、イヤんなっちゃうわねぇ。 話をしようなんて、考えるんじゃなかった」 姿を現してから、リュカの第一声がそれだ。 リュカがミリィと話した事で、何を思ったのか、その場に居た誰もが容易に想像出来る。 そして、その想像通り、リュカは眉間にシワを寄せながら、トウヤの方を向くと、一呼吸あけてから言った。 「トウヤ。貴男……、あの子の所へ帰りなさい」 想像通りの言葉を聞いて、トゥーナや源治郎は離れた場所で、『ヨシッ!』とガッツポーズしているし、シグルドやロキは安堵したのか、その場に座り込んでしまう。 そして、トウヤは…… リュカの言葉が聞こえていないかのように、再び仰向けに倒れて動かない。 そんなトウヤの心情を察してなのか、リュカはもう一度トウヤに「帰りなさい」と告げた。 「誰が、俺の代わりに、この世界に残るんだ?」 トウヤが、掠れた声でようやく絞り出した言葉は、憤りを含んだ問い掛けだった。
/704ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21584人が本棚に入れています
本棚に追加