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「消えた?」
忽然と消えた少女。
今まで、少女が居た場所を呆然と見つめ、ミリィはしばらくの間呆けていたが、無意識にそっと自分のお腹に手を当てた時、お腹の中に宿る命が胎動したように感じられ、驚いて自分のお腹へ目を向ける。
妊娠して、ようやく3ヶ月を過ぎた頃だ。
まだ、お腹の子が動くとは考えられない。
それなのに、確かに命の鼓動を感じた気がして、ミリィは首をひねる。
と、不意に少女の事で気付いた事があり、ミリィが呟いた。
「そう言えば、あの子の名前、聞きそびれたわね」
この場にトウヤが居れば「名前かよ!」とツッコミを入れていただろうが……。
その場には誰も居ない。
静かになった屋上で、ミリィは自分のお腹を撫でながら、寂しそうな顔で夜空を見上げるのだった。
そして、場所は再びトウヤ達に戻る。
仰向けに倒れたまま、リュカとミリィの話を呆然と聞いていたトウヤは、バツの悪そうな顔で上半身を起こすと、こちらへ視線を投げかける4人を見ず、うつむいたままだ。
そんな中、トウヤとシグルド・ロキの間の空間に、突然小さな光の球体が現れたかと思うと、その球体は「パンッ!」と乾いた音を立てて弾け飛んだ。
すると、次の瞬間には、球体の弾け飛んだ場所に、両腰に手を当て、盛大にため息を吐きながら首を振るリュカの姿があった。
「ア~ア~、イヤんなっちゃうわねぇ。
話をしようなんて、考えるんじゃなかった」
姿を現してから、リュカの第一声がそれだ。
リュカがミリィと話した事で、何を思ったのか、その場に居た誰もが容易に想像出来る。
そして、その想像通り、リュカは眉間にシワを寄せながら、トウヤの方を向くと、一呼吸あけてから言った。
「トウヤ。貴男……、あの子の所へ帰りなさい」
想像通りの言葉を聞いて、トゥーナや源治郎は離れた場所で、『ヨシッ!』とガッツポーズしているし、シグルドやロキは安堵したのか、その場に座り込んでしまう。
そして、トウヤは……
リュカの言葉が聞こえていないかのように、再び仰向けに倒れて動かない。
そんなトウヤの心情を察してなのか、リュカはもう一度トウヤに「帰りなさい」と告げた。
「誰が、俺の代わりに、この世界に残るんだ?」
トウヤが、掠れた声でようやく絞り出した言葉は、憤りを含んだ問い掛けだった。
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