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「今日は、ここまでにしましょう。」
粗方の報告を聞いたユエが、書類をまとめながら、周りにいる者達全員へと告げる。
シルメリア難民達が、どこに多く避難しているのか。
シルメリア難民の死亡報告に、漏れはないか。
この2つについて、幾つかの新しい報告を受けたユエは、疲れたのだろう。
いつもより青い顔をしていて、棗以外の者達が家から出るや、直ぐに居間で横になってしまった。
慌てたのは棗だ。
棗は、急いで布団を敷いて、ユエの手を取りながら布団へと連れていく。
「ありがとう。」
青い顔で笑顔を作りながら、ユエは布団に潜り込んで、重い息を吐き出す。
「ユエさん。大丈夫~?」
病弱なユエだ。
疲れが一気に出たのだろう。
ユエは、気丈に棗に笑いかけた後、ぼそりと「アレンは…?」と、いつの間にか居なくなっていたアレンの姿を探すように部屋の中を見回す。
棗も「そう言えば~」と言いながら、居間の中を見回していると、シアに肩をかりながら、アレンがフラフラとした足取りで戻ってきた。
ビックリしたのは棗だ。
「ナッ!」と驚きの声をあげながらアレンに近付き、すぐさまアレンの体を見回すと、シアに非難の目を向けた。
「何をしてたの~?」
傷は無いが、アレンの衣服が所々破れたり、微かに血が付いているのを見つけ、棗がシアに向かって冷たい声で尋ねると、アレンがニカッと笑みを浮かべて「特訓だよ」と答えてきた。
「特訓~?」
いつの間に居なくなったのかすら分からなかった棗は、眉間にシワを寄せながら、シアに再度視線を投げた。
「『あの男が襲って来た時、戦えるように強くなりたい』だそうですよ。
ギョロ目も、ジャリガキを見習うです。」
シアは、一瞬だけアレンに視線を向けた後、何を思ったのか、アレンを棗に向かって押しやった。
只でさえフラフラだったアレンは、よろけながら棗に向かって倒れ込んでしまう。
棗は、とっさにアレンを抱き止めながら、シアに向かって「何してるの~!」と文句を言ったが、シアは何も答えずに台所の方へと歩いて行ってしまった。
棗は、無言で台所へと向かうシアの背中に「バカ猫~!」と文句を言いながら、アレンの背中へ手を回して、ユエの隣に横にならせた。
アレンは、自分も疲れているのに、ユエを心配して「大丈夫?」と横になりながら声をかけ、ユエが「大丈夫よ」と言って微笑むのを見るや、直ぐに寝息をたて始めてしまった。
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