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気分が高揚したと言うより、溜まっていた鬱憤(うっぷん)が噴き出したというところか…。
猫のような縦長の目に次いで、背中から羽まで生やしたミリィが、ジリジリとエリシアに歩み寄っていく。
コレには、流石のエリシアも驚いたらしく、つぶっていた目を見開き、トウヤに視線で説明を求めてくる。
トウヤは、困ったように人差し指で右頬をかきながら、エリシアに説明した。
「実は、ミリィと結婚記念で、旅行に行こうと思ってたんだけど…その…お前が壊した物を弁償すると…旅行に行けなくなるんだよ。」
トウヤの言葉に、エリシアではなく、クラシルが「なる程」と言って仕切りに頷き、エリシアは迫り来るミリィを見ながら、バツが悪そうに視線を逸らす。
「お母様!
私とトウヤの結婚生活を、邪魔したいんですか?
只でさえ、トウヤのお母様から『孫はまだ?』と、この前聞かれて少し落ち込んだのに…」
怒りで口が滑ったミリィが、何気にとんでもない事を口にすると、トウヤは呻くような声を上げて、頭をかきむしる。
「孫…」
ミリィの言葉を聞き逃さなかったクラシルが、何とも複雑な声で呟き、ルナが至って冷静な声で「確かに、そろそろ言われますわね」と納得している。
そんな娘の言葉に、エリシアも哀れみを込めた視線をミリィへ向ける。
さて、普通ならばここで娘の話に耳を傾けて、話は一段落するだろう。
だが、この母娘が、ここで終わる訳がない。
エリシアは、哀れみを込めた視線を向けつつ、ミリィに向かって右手を突き出す。
そんなエリシアの姿に、クラシル以外が一斉に厨房へ駆け込んで行った。
「ヒニャニャッ!
何してるですか!
いきなり厨房に入ってきたら、危ないですよ!」
ちょうど、コーヒーを運ぶつもりだったらしいシアが、厨房になだれ込む仲間達に向かって、驚き文句を言うが、みんなそれどころではない。
見事なほど狼狽えながら、全員が物陰に隠れて、母娘を盗み見る。
棗に限って言えば、頭を両手で抱えて座り込み「来るよ~!」と叫んで、これから来るであろう衝撃に身を堅くする。
「ギョロ目?
何してるですか?
いったい…」
状況が全くつかめないシアが、棗に問い掛けようとした時…。
「アンタ達の子供の事なんて、知らないわよ!
そんな事まで、アタシに八つ当たりするんじゃないわよ!
この、バカ娘!」
食堂に、エリシアの怒声と、何故かクラシルの悲鳴が響くのだった…。
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