~惨劇から始まる悲劇~

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シルメリア大戦中に存在し、今は「ホムラ国内と世界の平和を守る」という“ホムラ国女王”森羅(しんら)の命の下に、新たに再編された組織がある。 特殊部隊「カエン」と呼ばれていたその組織は、先の大戦の折に活躍した“英雄”シェインがリーダーとなり、今は「エンブ」と呼ばれている。 そのエンブの一室で、英雄シェインが頭を抱えて唸っていた。 もともと筋肉質で大柄な男なだけに、標準サイズの事務机の上に両ひじを乗せて頭を抱えるその姿は、いささか滑稽にも見える。 そんなシェインの前で、報告書に目を通している妖艶な雰囲気を持つ女性。 ルナは、頭を抱えているシェインに更に追い討ちをかけるように報告書を読み上げていった。 「昨夜の事件で、既に8件目ですわ。 今回の犠牲者は50代の男性。 死因は…、今までの7件と同じように、突発的な心停止。 そして、体内の魔力が根こそぎ奪い去られていることが特徴です…。」 あくまでも事務的に、淡々と報告書の内容を読み上げていくルナに、シェインは抱えていた頭を上げて話しかける。 「確かに問題だな。 今回で8件目なら、森羅様にもこの事を報告しないといけないだろうな…。」 疲れていると一目で分かるシェインの表情を見ながら、ルナは頷いて、読み上げていた報告書をシェインに差し出した。 「森羅様に面会するのは明日の朝。 それまでに、この報告書の内容を確認して、頭に入れておいて下さい。」 流石はルナ。 表情を変えずに話すルナを頼もしく思いながら、シェインは報告書を受け取った。 「ところで…」 報告書に目を通し始めたシェインに向かって、ルナが新たに取り出した書類の束を突き出しながら問いかける。 「この請求書の束は…どうしますか?」 すると、報告書を読んでいたシェインの表情が一瞬で凍り付き、そのシェインの顔を見て、ルナがニヤリと笑う。 この請求書こそが、シェインが先ほどまで頭を抱えていた元凶である。 「あの2人か?」 顔を引きつらせつつ、シェインが震える声で尋ねると、ルナは満面の笑みで頷いた。 「あの2人以外に…こんなに物を壊す人がいますか?」 ルナの落ち着いた声での回答に、シェインは大きなため息を吐き出した。 「俺は、ついさっきまで…あの2人が壊した物の請求書の金額に頭を抱えていたんだぞ? それを…更に請求書を持ってきたのか? そんな束になるくらい、あの2人は何を壊したんだ?」
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