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ホムラ国から、南に位置する大陸最南端の国…カシェラ国。
ホムラ国と同じ小国であり、大陸最南端に位置するカシェラ国はシルメリア大戦前までは、リゾート地としても有名な国であった。
今では観光業は衰退し、農業の盛んな国として再生しつつある国である。
そんなカシェラ国の砂浜に、今では珍しい観光客が“2人”。
言わずもがな、トウヤとミリィである。
昨日、仲間達と遅くまで宴会を楽しんだ2人は、カードを使ってカシェラ国へと転移すると、直ぐに浜辺へと移動して、優雅な昼下がりを満喫していた。
「青い空にミリィの水着!
青い海にミリィの水着!
白い砂浜に、ミリィのみずぎぃぃぃぃ!」
よほど、ミリィの水着姿が嬉しかったのだろう。
砂浜に横たわる水着姿のミリィを見て、興奮気味にトウヤが喚いていたが、恥ずかしかったらしいミリィが、顔を赤らめてトウヤを火球で吹き飛ばしてしまう。
「何度も『水着』って言わないでよ!
恥ずかしいでしょう!」
海へと落ち行くトウヤに向かって、ミリィが声を張り上げているが、きっとトウヤには聞こえていないだろう。
ミリィは、フッと力を抜くように息を吐いて、再び砂浜に寝転ぶ。
「本当に…あんなにスケベで…夜も…あんなに…」
どうにも慣れない夜の事を思い出し、ミリィは赤くなる顔を隠すように、砂浜へうつ伏せで寝転び、顔を両手で覆う。
その格好のまま、ミリィは悲しそうに指の隙間から声を漏らした。
「どうして、子供が出来ないのかな…」
漏らした声が引き金になり、ミリィは昨日の事を思い出す。
昨日…。
みんなで、楽しく食事をしていた時の事だ。
思い出話をしながら酒を飲み交わしているトウヤ・シェイン・クラシルや、ルナとシアのいつもの口喧嘩を見ていた時、ふとユエがアレンの皿へ料理を取り分けているのが目に付いた。
その後から、アレンが「ありがとう」と言いながら、ユエから皿を受け取る姿や、ユエが棗と楽しげに話すアレンを、嬉しそうに見つめる姿が、どうにも目についてしまい、それと同時に何故か悲しい気持ちがミリィの中に湧き上がってきた。
何故悲しい気持ちになるのか?
ミリィ自身も、その理由は分かっている。
自分には、まだ子供がいない。
その事が、ミリィを悲しくさせているのだ。
気分が落ち込み始め、ミリィは1人で席を立ち、夜空を見ようとテラスに向かって行った。
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