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「……今回で8件目か。
厄介だな。」
報告書を読み終えたトウヤは、眉間にシワを寄せてルナへと目を向ける。
夫婦の憩いの時間を、邪魔されたからだろうか…。
鋭い視線を投げてくるミリィに対して、笑顔で見返していたルナが、トウヤへと笑顔のまま向き直る。
「とても厄介で…、面倒な事件ですわね。」
「何が厄介なのよ?」
トウヤとルナの会話に、不機嫌なミリィの声が割って入る。
すると、ルナは報告書をその場にいる仲間達全員へ配りながら説明を始めた。
「この事件は、大きな特徴がいくつかあります。
一つは、全員が体内の魔力を根こそぎ奪われて死亡しているという事。
二つ目は、死亡した人の死因が突発的な心停止という事。
更に、これからの内容が一番厄介なんですが…。
死体を見つけた人はいても、襲われている人を見た人…目撃者が居ないのです。」
「8件も同じ事が起こってるのに、目撃者が居ないの~?」
棗の問いにうなずきながら、ルナは話を続ける。
「いずれの事件においても、真夜中に起きている事もありますが、今の社会環境が問題なんです…。」
そう言って、ルナは今の“大きな問題”を話し始めた…。
1年前…。
『シルメリア大戦』と呼ばれている戦争を終結させた。
だが、世界は未だに復興していない。
「カラナタ国…タワナ国…カシェラ国。
国としての機能を一度でも無くしたら、昔のような暮らしを送るのは、難しくなります。」
勿論、国によって復興にも差がある。
タワナ国は、神官のユエが復興に尽力している事と、ホムラ国との連携が強化され、物資の補給が行われている事もあり、今は以前と同じように暮らせるくらいまで回復しているらしい。
カシェラ国も、観光地としての国益は未だに無いに等しいが、農作物での収益によって国は潤い(うるおい)始めている。
だが、カラナタ国に限っていうならば、昔と同じような暮らしとは程遠い生活水準らしい。
「タワナ国や、ホムラ国との流通で少し暮らしは改善されたようですが…。」
元々、カラナタ国からの“難民”として、ホムラ国にきたルナにとっては、カラナタ国の現状は見るに耐えないのだろう。
カラナタ国の説明をしている最中に、うつむいてしまった。
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