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「ルナ~?」
うつむいたルナに、棗が心配そうな声を掛ける。
ルナは、そんな棗に気丈にも笑顔を見せて、話を続けた。
「皆さんも、世界中を旅しているから分かっているとは思いますが、先程までの話のように、まだまだ大変な生活を送っている人が多いという事です。」
そんな状態だからこそ、人々の心も余裕がない。
「今の環境のせいで、殆どの人が『他人に構っている時間は無い』という訳です。」
暮らしが苦しければ、人の心は荒(すさ)んでいく。
分かっている事とはいえ…“戦争の無い平和な世界を”と望んで戦ったトウヤ達にとって、その事実は悲しいものだ。
言葉を無くすトウヤ達。
そんなトウヤ達に、ルナは追い討ちをかけるような一言を呟いた。
「心が荒んでいる今だからだと思いますが、死亡した8件の被害者の内、6人が“シルメリア国からの難民”のようです。」
シルメリア国…。
全世界に向けて“宣戦布告”した大国であり、トウヤ達に戦争という地獄を見せた国。
その大国は、大戦に敗れ、シルメリア王はホムラ国で永久幽閉となっている。
以来、シルメリア国は国内での内乱が絶えず、衰退の一途を辿っている。
その為、難民となったシルメリアの民が各国へと雪崩れ込み、唯でさえ苦しい生活に拍車が掛かっているのだ。
「苦しい生活で荒んだ心に、敵だった国の難民を助けようなんて心は無い…か。」
口元を皮肉げに歪めて呟くトウヤに、ミリィは心配そうな視線を向け、そっとトウヤの手に自分の手を添えた。
「ホラホラ!…何を辛気くさい顔してんだい!
アンタ達は、そんな顔をしちゃいけないよ!」
重苦しい空気を吹き飛ばすように、タエ婆ちゃんが両手を叩いて、全員の視線を集める。
タエ婆ちゃんは、人懐っこい笑みを顔に張り付け、みんなへ向けて話し掛けた。
「アンタ達は『戦争の無い、平和な世界』を願って戦った…、ホムラ国の勇者だ!
それなら、アンタ達が望む平和を守る為にも、アンタ達が動けば良いんだよ!」
みんなを励ます、タエ婆ちゃんの言葉が嬉しかったらしい。
トウヤは、ニヤリと笑ってみせると、全員に向かって言った。
「タエ婆ちゃんの、言う通りだよな!
俺達が望んだ平和な世界を、これから築いていくんだ。
これからだよ!」
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