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~惨劇から始まる悲劇~
『シルメリア大戦』が終結し、早1年。
世界は復興の兆しを見せ、人々は昔の生活を取り戻し始めていた。
だが、戦争で全てを壊された“国”や“人の心”は、未だに傷を抱えており、傷は心無い差別を生み出しつつあった…。
リュラトル大陸の東に位置する小国「ホムラ」
この国は、先の大戦で大きな功績を挙げ、今や各国を率先する立場を兼任する国となった。
そんなホムラ国の首都「ヒイラギ」のある夜の事…。
家の中の明かりは消え、夜空に浮かぶ星々の輝きが夜の世界を薄っすらと染めている。
首都といえども、真夜中では星明りや舗装された道に転々と並ぶ街灯しか明かりが無く、外は暗い。
そんな中、息を切らせて男が暗がりの中を死に物狂いで疾走していた。
目を血走らせ、焦点の定まらないその目は、常に周りを警戒し、まるで目だけが別物のように落ち着き無く周りを見回している。
苦しげな息遣いや、もつれる足元、全身から噴出す汗の量からも、男の体力に限界が近付いているのも見て取れる。
だからだろうか。
男は、半狂乱になって叫んだ。
言葉にならない叫び声は、夜の町にこだましていく。
だが、周りの家に明かりが灯ることは無い。
家から声が漏れることも無い。
半狂乱になる男を助けようとする者は、一人も現れない。
分かっている。
男も、頭の隅では助けなど来るはずが無いと分かっている。
それでも、もはや自分の体力は限界で、このままでは“殺される”しか自分の運命は残されていない。
意を決した男は、最後の手段として近くの民家へ逃げ込もうともつれる足を必死に動かして民家へと近付いていく。
もう直ぐだ…。
もう直ぐで民家に逃げ込める。
目の前に暗くたたずむ玄関のドア。
男は、そのドアの取手に手を伸ばした。
だが…、伸ばした手が取手に届くことは無い。
何故なら、そこまでしか男の意識は保たなかったからだ。
男は、玄関の中へと逃げ込む希望を頭に描きながら、背後にうごめく漆黒の闇の中へ、引きずり込まれていった…。
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