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唐突に呼ばれた自分の名前。
呼んだのは他でもない、喧嘩真っ最中の郁斗で。
視線を向けると切羽詰まったような顔に悲しそうな目。
まるで捨てられた犬みたいだった。
『…何。』
事務的な声で返事をすればビクリと震える弟。
ソファーで足を組んで。
人気絶頂にある郁兎を見下ろして。
どこの王様だ、私。
まぁ、この業界で生きていくわけじゃないから全然問題はないんだけど。
郁斗は弟だし?
欠伸をかみ殺していると焚かれるフラッシュ。
目がチカチカする。
三波さんを軽く睨みつければ、更に激しいフラッシュに襲われた。
…嫌がらせか?
チッと軽く舌打ちをして視線を彷徨わせれば私を見ていた黒須さんと目があった。
首筋に咲く赤い痕がチラチラと覗いて、顔が自然とにやける。
ふっと笑ってヒラヒラと手を振れば嬉しそうにはにかむ黒須さん。
犬みたいだな、なんて失礼なことを思っていると引っ張られる右腕。
引っ張られた右腕を辿れば悲しそうな目をした郁斗がいて。
「っ夜叉!なぁ、俺のこと無視すんなよ…!」
『触んな。』
「……っ」
『本当は行かないつもりだったんだけど、黒須さんが強請るから来ただけ。
必要以上触らないでくれる?』
そう言うと近づいた郁斗を足で軽く蹴った。
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