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「――…お呼びでございますか…?」
シエルはシーツに添えられる手にハッとした。
これは、この声は。
「…セバスチャン…」
「…只今戻りました、御主人様。」
シエルにはみえなかったが、セバスチャンは今微笑んでいると感じた。
何故かは分からない。きっと、ただの偶然だ。
セバスチャンはシエルの目元に手を添える。
「…泣いていらしたのですか?」
「…っ分かっている癖に一々いうな。」
いつもながらの冷たい口調だが、本当は目元に当てられる冷たい手の感触が、
どうしようもなく、嬉しくて。
「…寂しかったのですか?」
クスッと笑う声が聞こえる。
シエルはぶあっと顔が熱くなるのが感じられた。
「ばっ…馬鹿を言うな!//
何故僕がお前なんかに…」
「そうですか、寂しかったのですね…。」
「…人の話を聞け。//#」
クスクスと笑うセバスチャンに、普段なら腹を立てるシエルだが、そんな些細な癖さえ、今だけは特別だった。
「寂しい思いをさせて申し訳ありません。」
「だから人の話を……##」
「もう私は何処にも行きません。」
シエルはいつもと違うセバスチャンを感じた。
言葉の裏に決意と決心と、そして嬉しさも混ざっているようで…。
「ずっと坊ちゃんのお傍におります。
いかなるときでも、坊ちゃんを独りにはさせません。」
シエルはまた我慢していた涙が溢れた。
「…っその言葉に…、嘘はない…か……?」
声がしゃくり上げるのと同時に震える。
どうしようもないくらいに胸がいっぱいで。
「私は、嘘は言いません。」
バカバカしいくらいに嬉しくて。
…でもそれでも、
失うことを恐れて。
独りということに怯えて。
「…っなら、命令だっ…!」
だから気付かせてやればいい。
「僕の傍にいろ
…ずっと…っ、隣にだ!!」
独りじゃないということを。
「御意、御主人様。」
失うものはもう何一つだってないということを。
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