好きだから

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あの事件解決の日から3日、 シエルは今だセバスチャンの告白を引きずっていた。 「はぁ…」 重い溜息が漏れる。 書類に目は通しているものの、ちっとも頭に入ってこない。 「…はぁ…」 とん、とん、と指で机を叩く。 これは、シエルが考え込み過ぎている時の癖だ。 「……はぁ…」 溜息の回数が増えるごとに、シエルの指のリズムは速くなる。 ちらっと窓の外を見遣ると、フィニがセバスチャンに抱き着き、更地になった庭で泣きながら何かを訴えていた。 ふと胸の奥に疼く違和感を感じる。 それと同時に苛立ってきた。 「……はぁぁ…」 指は更に速くなる。 とんとんとんとん、と。 「坊ちゃん、何を苛ついてらっしゃるのです?」 気付くとぬっとした長身の影がシエルを覆う。 そこにはつい先程まで庭にいたであろうセバスチャンが目の前に立っていた。 考え事をしていたシエルに前は見えていなかった為、急に目の前に現れたセバスチャンに驚き、椅子と一緒にのけ反り倒れてしまった。 流石にこれにはセバスチャンも驚いた。 「大丈夫ですか?坊ちゃん。」 「…っつ…#、あぁ、平気だ。」 打った頭を摩りながら椅子を起こして立ち上がる。 そんなシエルを見てセバスチャンはクスッと笑う。 「坊ちゃんは深く考え込むと前が見えなくなるのですね。」 「…煩い。」 お前のその笑顔は、 僕の思うこと全てを見透かしているようで…。 「それはそれは、失礼しま… おや?」 セバスチャンはシエルの首元に目を留めた。 「嗚呼、リボンタイが解けておりますね。」 「え、…あぁ。」 セバスチャンはシエルの横にひざまづき、リボンタイを結び直した。 その間シエルはずっとセバスチャンの顔を見つめていた。 それに気付いてか、セバスチャンの口元に笑みが帯びる。 キュッと締め直すと、セバスチャンは立ち上がった。 「坊ちゃん?私の顔に何かついておりますか?」 …いやな奴だ。 「別に。」 「左様でございますか。」 クスクスと笑うセバスチャンから目を反らし、フンッと鼻を鳴らす。 こんな他愛ないことでも、 今のシエルは、結構嬉しい。と、思ってみたり。
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