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コンコン..
「坊ちゃん、お目覚めのお時間ですよ。」
扉を開けて声をかけるも、ベッドの中の主人はぴくりともしない。
「まったく…」
ふぅっと溜息をつき、柔らかいカーペットを踏み締めて窓辺に近付く。
ふわっとカーテンを開くと、眩しい朝日が差し込む。
ベッドに目を遣ると少しシーツがもぞっと動く。
が、肝心の主人が動かない。
「…仕方のない御主人様ですね…。」
ベッドに歩み寄り、主人を揺り起こそうと手を出した。
「朝ですよ、シエル坊ちゃ…」
言いかけて口をつぐむ。
額に冷たい感触。
嗚呼、これで何度目だろう。
「…ッセバスチャン…?」
息を荒げるシエルの顔は真っ青だった。
セバスチャンはニコリと微笑む。
「お早うございます、坊ちゃん。
また悪い夢をご覧になられたのですか?」
シエルはここ最近悪い夢にうなされている。
酷い時は夜中にセバスチャンを呼び出すことさえあるのだった。
「ああ…、…いい加減ゆっくり休みたいものだ…。」
起きたばかりにも関わらずシエルの身体は汗びっしょりで、寒いのか、微かに肩が震えていた。
「嗚呼…、そのままではお風邪を召されますよ。朝の紅茶より、お召し換えを先に致しましょう。」
「ん…、あぁ…そうだな。」
真っ青な顔で頷く。
そんな主人を執事はじっと見つめている。
今だけではない。
シエルの仕草、一つ一つをセバスチャンはじっと見据えていた。
セバスチャンの視線に気付いたシエルは眉を寄せた。
「…何だ」
「…いえ、何でもありませんよ?」
ニコッと笑ってごまかす。
流石のシエルも、悪魔であるセバスチャンの表情から感情は読み取れない。
いや、それでいい、
そのほうがいいのです。
私はあくまで執事…、
出過ぎた真似など致しません…。
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