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ばむっと扉を開けると、数メートル先にセバスチャンがいた。
「待て!!!!」
屋敷中に響きそうな声でシエルは叫ぶ。
セバスチャンはぴたりと立ち止まった。
背を向けたまま何も言わず、何もせず、ただシエルの言葉を促すようにじっと立つ。
シエルは息を切らしながら尚叫んだ。
「何故そうやってお前は僕から離れて行く!!!」
黒く、広い背中を見つめながら言った。
「何故僕の手の届かない場所に行く!!!!」
自然と声が震え、今にも溢れそうな涙を必死に抑えた。
酷く、酷く泣きたい。
「何故僕の傍に居ない!!!」
その背中に顔を埋めて、ほんの一時だけ子供のように大きな声で。
「他の奴に構うな!!!」
知らなかった。
「お前は僕だけを見ていろ!!!」
自分の中で、
「お前は僕の傍に居ればいい!!!」
セバスチャンの存在が
「僕を………」
こんなにも、
「……僕を独りにするな………」
大きくなっていたなんて――。
しゃくり上げるのを抑えながら両手で顔を覆ってしゃがみ込む。
ふと前が影になる。
顔を上げると、片膝をつき、胸に手を当てて頭を下げるセバスチャンがいた。
その表情は微笑み、悪魔とは思えぬほど優しい。
そして、
低く聞き慣れた声で言った。
「――御意、ご主人様。」
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