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閉じた漫画を丁寧に鞄にしまい込み、桜子は学校を出た。
この学校は私服校。
制服が似合わなくて、女装だと言われるのが嫌になった桜子が、どうしても私服校に通いたくて見つけた学校だ。
家からは電車で二時間と少し遠めだが、制服を着てから他人に女装だと思われるよりは全然いい。
……男だって思われるのは、少し嫌だけど。
いつもなら、電車に乗ってから家へ直行するのだが、今日はなんとなく止めた。
途中の駅で降り、改札口を出る。
なんとなく、いつも電車の中から無意識に目で追っていた公園に行きたくなったのだ。
夜の公園に着いた桜子の目に入ったのは、寒空の下、遊具の中で唄う少年だった。
充実した遊具を客に、公園の真ん中で、土の上に座りながら、アコースティックギターを弾きながら、唄っている。
「変わらなくていいんだよ
君はそのままが
美しいそのままが」
誰もいなくても堂々と唄うそいつは、少しかすれながらも凛とした綺麗な声で、惹かれた。
そして何よりも、その歌詞が桜子を突いた。
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