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なんて――
なんて純粋な歌なんだろう、それは。
滑らかな和音を奏でていたギターの音が止んだ。
外からの雑音も無く、静まりかえった公園の真ん中に座ったそいつは閉じていた目をゆっくりと開け、そして、桜子を見てから焦ったように立ち上がる。
立ち上がる拍子にギターが転がり落ちそうになり、そいつは慌ててギターを掴んだ。
その顔を見て、桜子は、
「……あ、」
と間抜けな声を出した。
こいつ、知ってる。
あいつだ、同じクラスの、隣の席の。
「土井、梅太郎[ツチイ ウメタロウ]?」
暗い上に、彼の前髪が長いので顔はよく見えないが、……いや違う、だからこそだ。
そのうっとうしい前髪は、土井梅太郎だ。
無口だし常に無表情だから、事務的な会話以外、まともに話した事はないが。
土井は早くも落ち着きを取り戻したようで、桜子の顔を指し、ボソッと呟いた。
「――泣いてる」
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