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ギルリアは吐き捨てるように言った。戦闘に巻き込まれた村がこうなるのは自然な事であり、ギルリア自身何度も目の当たりにしている。しかし、傭兵になる以前、自身も同じ体験をしているだけに、やりきれない思いが胸に湧き上がってくるのだ。
「しょうがないですよ。ここは戦場ですから」
「分かってるよ!」
そう叫ぶと、目の前で村人を切り殺した、ヴィッコリス隊と思われる兵士に駆けて行き、力を込めて大剣を振り下ろし、両断した。
「クズが!」
倒れた死体に唾を吐き掛ける。
「いいから、早く逃げましょう。グズグズしてると囲まれますよ」
パウルの言葉に頷いて駆け出す。しかし、ある半壊した家の前に通りかかると足を止めた。
その事にパウルが文句を言おうとするのを右手を挙げて制し、崩れた壁の裏側を覗く。そこには一体の女性の死体と、それを見つめて呆然とへたり込んでいる少女の姿があった。
パウルは、その少女を見つけた時のギルリアが、少しホッとした様に顔が緩んでいる事を確認した。
(生存者がいたことが余程嬉しいんだな)
自分達が生きるか死ぬかって時に、そんな事はどうでもいいじゃないか、とこの時はそう思った。
「……お前の母親か」
ギルリアが問いかける。少女に返事は無い。ぼぅっと、死体を見つめている。
「ここにいると、お前も同じようになるぞ」
やはり返事は無い。
「お前も死にたいのかと聞いている!」
「!!!」
この叫びで漸く我に返ったというように、少女は両肩を大きく震わせてからギルリアの方を見た。ギルリアはそれを確認すると、パウルの腰から剣を抜き、少女の目の前に突き立てた。
「死にたくなかったら、それを持って着いて来い」
少女は訳がわからないといった表情で、剣とギルリアの交互に目をやる。その様子に苛立ったギルリアは、
「早くしろ!」
と一喝する。しかし、少女は大男の一喝に腰を抜かしてしまい、剣は握ったものの上手く立つ事が出来ない。
「そんなに叫んじゃ可哀想ですよ」
と言って、後ろで眺めていたパウルが少女の目の前まで歩み寄り、手を引いて立ち上がらせる。
「女の子にはもっと優しくしないと」
冗談を言ってギルリアの方を向いたパウルの目は、笑っていなかった。
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