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何とか南の軍港に退却してきた兵達は、味方であるはずのディタ隊から矢の応酬をうけ愕然とする。
「自分達はヴィッコリス隊と同様にゲルバルト軍に味方する! これで貴様達の退路は断たれた! 降伏して我が隊に味方しろ!」
これで、一気に北と南の軍港がゲルバルト軍の手に戻った事になり、陸地にいるヘンニュクス軍は袋の鼠となった。しかし、この状況で更に抵抗や逃走を謀る者は無く、全ての者が降伏の意思を示すように武器を捨てた。 その最中、オーガ団と、それを追う形でヴィッコリス隊がやってくる。
ディタ隊は、ヴィッコリス隊に呼応して前面よりオーガ団を攻める。
「オーガ団の降伏は許すな! 皆殺しにしちまえ!」
遅れて到着したヴィッコリスの声が戦場に響き渡る。この事で追い詰められたオーガ団は、逆に戦意を高揚させた。
「誰が薄汚ぇ裏切り者野郎なんかに降伏するかよ! 待ってろヴィッコリス! その首、叩き落してやる!」
まだ希望はある。ゲルバルト軍本隊が来ていない今、隊長であるヴィッコリスさえ倒してしまえば、敵は混乱し、或いはこちら側に戻るかもしれない。更に、こちらは望み薄だが、海路を迂回しているオルコン隊が到着すれば数は互角。それと呼応して南の軍港を突破し退却するのは容易だろう。しかし北の軍港での彼の行動から、戦わずに逃げる事も考えられる。だから自分達が生き残るには、
(俺がヴィッコリスを斬るしかねぇ!)
となるのだ。
「斬れるものなら――」
と言ってヴィッコリスは長剣を巧みに操り、目の前のオーガ団の一人を袈裟切りに斬って捨てた。
「斬って見やがれよ!」
ヴィッコリスは部下に命じて、ギルリアに攻撃を集中させる。それに対応しなければなら無くなったギルリアは、ヴィッコリスどころではなくなってしまった。
それから一時間してオルコン隊が到着するが、大方の予想通り、一戦もせずに南へと去って行った。
「なんでしょうね、あれ」
「ありゃ、オルコン隊じゃなくて臆病隊だな」
乱戦の中でパウルに冗談を言ってギルリアは苦笑するが、心底の怒りを抑えきれず、目の前の敵兵の頭上へ目一杯の力を込めた一撃を浴びせた。
「どうします? まだ戦いますか? 皆疲れてきてますよ」
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