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そう言ったパウルは未だ疲れを見せず、笑顔で剣を振るっている。オーガ団は善戦しているが、数に二倍以上の開きがある敵軍の為に、じりじりと被害が広がっている。更にはパウルが指摘するように疲労の為、動きが悪くなってきている。
ふと、ギルリアは別のことを聞いた。
「おい、あいつはどうした」
「あの女の子ですか? あそこですよ」
パウルが顎をしゃくった先には、オーガ団一の巨漢であるドーガと言う男の影に隠れ蹲っている少女がいた。 暫くギルリアは無言で戦っていたが、
「よし、一旦あの森の中へ退くぞ」
自分とパウル、そして他の選りすぐった七人の計十人で殿として追っ手を防ぐ事になり、少女はそのままドーガに守らせて、森の木々より突出ている大岩の下へ退却するよう全部隊に伝えた。
「逃げる場所なんて何処にもねぇのによ」
ヴィッコリスは薄笑いを浮かべながら追撃を命令したが、十人の築いた巧妙な陣形を中々突破する事が出来ない。とは言え、比較にならないほど差のある敵を長時間に渡って支えられる訳も無く、味方が全て退却し終わった事を確認すると、自分達もすぐさま退却を始めた。その時生き残っていた殿隊は、ギルリアとパウルを含めた四人だった。
大岩の下まで退却したオーガ団は、目立たないように直ぐ脇の深い茂みの中へと移動した。
「何人いる?」
ギルリアは、傍で笑みを浮かべているパウルに聞いた。彼とは三年来の付き合いではあるが、親に言われたからだと、あまり笑顔を崩す事は無く、怒りの表情などは二度三度しか見たことが無い。しかも表情に比例して、自分も含めたどの団員よりもタフだった。勿論戦闘力にも優れている。
「四十一人と、一人ですね」
他の団員全て、疲労と怒り、若しくは絶望で表情は暗かったが、パウル一人は明るく笑っている。更には他の団員全て、体のどこかに大小の傷を負っているのだが、パウルのみは無傷だった。
「四十一人と、一人、ね」
その一人は、団員達と少し離れた木の下で、両足を抱き抱える様に座っていた。
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