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橙色のレンガを敷き詰めた道を、一人の少年と二メートルは裕に超えているだろう大男が歩いている。少年と言っても、顔立ちが幼く体も小柄な為にそう見えてしまうだけで、今年で二十歳になるパウルと言う”青年”であり、オーガ団の中核を担う人物の一人である。
「勝てるんですかね?」
その”青年”は、隣の大男に聞いた。
出戦前の作戦会議に一応呼び出されたものの、結局大まかにしか作戦内容を聞かされずに帰途に着く事になったのが、青年には不満だった。
ヘンニュクス軍は、今回で五十六度になるゲルバルト領侵攻作戦を実行する事になり、ロイド川沿岸一帯を取り締まるベイネス・フォルンと言う男にその指揮を命じた。
ベイネスの領土では兵が徴募、訓練され、各地から傭兵を雇った。オーガ団もその一つである。
「勝てるんだろうよ。軍のお偉いさん方はそう言っている。今あの島には五百程度しか兵が居ないらしい。此方の先鋒隊は千二百。少なくとも、数の上では負ける事はないさ」
”あの島”とは、ロイド川の中にある小さな島の事で、ヘンニュクス軍は、対岸の都市を攻める前に先ずこの島を取るべく先鋒隊を遣する事にし、オーガ団からも二百の兵が加わる事になった。残りのオーガ団は副隊長に指揮を任せ、後発隊に組み込まれる事になる。
「そうじゃなくて、戦い全体にって事ですよ。今までこちら側は、この方面の戦いじゃ負けっぱなしって言うじゃないですか。今回だって、敵よりも兵数が多いから攻め込むって感じに思えるんですよね。まぁ、根拠は無いですけど。何か良い策でもあるって言うんですかね、今回の雇い主さんは」
「さぁ、な。詳しい作戦は俺達のような傭兵風情には教えられてねぇよ。少なくとも勝てると見込んだから攻め込むんだろうよ。”今回の雇い主さん”は、な」
今回の雇い主であるベイネスは、元々この地方の豪商だった。しかし、何を思ったのかヘンニュクス家の一族であるフォルン家の一族であると偽って士官した。勿論方々に根回したり、巧妙に作った家系図を提出して、疑われる事の無い様にだ。それから勢力内を巧みに泳ぎ、着実に功績を上げて今の地位にある。
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