脱出

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 島の中央部は兵を伏せるのに絶好の森林地帯となっている。軍港に詰めていたゲルバルト軍はここを迂回するように逃走したが、こちらがそれを追ったと同時に、森林地帯に伏せてあった兵が背後から現われて挟撃するという可能性もある。踏み入ったら踏み入ったで索敵に時間を取られるだろう…… 「私がこの場に留まり警備いたしましょう」  とディタは言った。オルコンはその案に賛同したものの、たった百では心許ないと、自分の部隊から百を割いて二百とし、これに軍港の警備を命じた。  島の北にはもう一つ軍港があり、ゲルバルト軍はここに全ての兵を集めていると思われる。  オルコンは隊を海陸の二つに分け、海戦部隊を自分が、陸戦部隊をヴィッコリスに任せ、軍港を挟撃することにした。  進撃途中伏兵に遭う事も無く、両隊は北の軍港に到着する。しかしここでも、ゲルバルト軍は短時間の戦闘を行っただけで、被害も無いまま軍港を放棄してしまった。  こうなると、あきらかに自分達を誘い出す為の罠であるとオルコンには考えられ、全軍に追撃せずに守備を固め、周りに伏兵がいないか探索するように命じ、同時に、島の占拠と敵軍の動きを司令部に伝える為、伝令を出した。      ヘンニュクス軍は厳重に辺りを警戒していたが、夜になっても敵が現われる様子もなく、夕食時には、殆どの兵が幾分かは気を緩めていた。  夕食後、オルコンを除く三人の部隊長、ユーク、クレンセイト、ギルリアにヴィッコリスから招集が掛かる。それが私用であると言うのでギルリアは、 「酒乱様のお酒のお付き合いでもさせようってのかい? 冗談じゃない」  とヴィッコリスの直属の部下である使者をからかった。それを聞いた使者は怒って帰ってしまった。余談だが、ヴィッコリスは本当に酒乱の気があり、酔っ払って街の酒場を何軒か壊した事がある。  他の二人は、断ると何をされるか分からないので、渋々了解しヴィッコリスの待つ部屋へ向かった。 「ギルリアは?」  と彼を呼びに言ったはずの使者に問う。そして応じなかった事を伝えられると大きく舌打ちをした。 「まぁいい。アイツは味方にするよりも俺の手で殺した方が、名が上がっていいだろうよ」  ヴィッコリスは一人哄笑する。 「殺す……? 一体何の事だ、ヴィッコリス殿」 「あぁ、そうそう、俺達は今からゲルバルト軍に寝返るから。その了解を取る為にお前達を集めたのさ」
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