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「寝返る!?」
二人とも大きく目を見開き、呆気に取られてしまう。
「ああ。そうすれば恩賞も貰えるし、地位もそのままだって約束させてもらったんでね。それに俺はベイネスの野郎に何でか嫌われている。出世も望めねぇ。だったら、とっとと鞍替えするのが道理ってもんだ。お前達もそれでいいだろ?」
この言葉に対して二人は断乎として拒否し、考え直すように説得を試みるが、
「馬鹿だなぁ」
ヴィッコリスはそう言って嫌らしい笑みを浮かべると、顎をしゃくってみせる。その刹那、二人の腹には剣が突き刺さっていた。
驚き、動けずにいる二人。
今度は正面から、ヴィッコリスが抜刀して二人の首を切り落とした。
「反対すりゃ死んじゃうだろ。命は大切にするもんだ」
二つの胴体から吹き出る血を浴びながら皮肉を言う。そして部下に命じ、寝返りの合図である狼煙を上げさせた。
「ヴィッコリス隊はこれよりゲルバルト軍に味方する! 狼煙の合図で直に援軍も駆けつける! ヘンニュクス軍にいれば必ず負け、此方に味方すれば恩賞は思いのままだ!」
ヴィッコリス隊は、この言葉を声高に叫んで軍港を駆け回る。
不意をつかれたオルコン隊は混乱した。
統制が取れていたのはオーガ団ぐらいもので、部隊長不在のユーク、クレンセイトの部隊は訳が分からずおろおろする者、逃げ出す者が大半で、残りはそのままヴィッコリス隊に呼応し、その場に踏みとどまって抗戦したのはごく僅かだった。
それでも全体で見れば、百を南の軍港守備に割いたとは言え。オルコン率いる海戦部隊はヴィッコリス隊の倍に当たる兵力を有しており、陸のオーガ団と協力すれば鎮圧は可能なはずだった。しかし、「直に援軍も駆けつける」と言う言葉に動揺したオルコンは、陸戦部隊を無視して退却を開始した。この事で、他の味方も戦意を無くして降伏、或いは退却した。
オーガ団はヴィッコリス隊のみとなら同数であり統制も取れていたため、必然的に殿となって善戦した。しかしヴィッコリス隊は手強く、てこずって援軍が来ないうちに退却する事になった。
逃走した者達は森林地帯を迂回せずにそのまま直進した。
そのルートには小さな村があり、オーガ団でも最後衛で戦っていたギルリアとパウルが通りかかった時には、戦闘と略奪が行われた後で、村人や兵士の死体が転がり、家は壊れ、或いは燃えていた。
「なんだってんだよ、こりゃあよ!」
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