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早坂さんと裕は仲が良い。
よく話しているのを見かけるし、よく笑い合っている。
彼女は、きっと裕のことが好きなんだと思う。
裕も、もしかしたら。
「……可愛いな、彼女」
思ってもいないことを、ぼそりと呟いた。
聞こえていないかも、と思ったが、裕には聞こえたようだ。
「何だよ、航って早坂みたいなのがタイプなの?」
「タイプっていうか...。お前だってそう思うだろ?」
「別に?……やめとけよ早坂は。絶対尻にひかれる」
裕はそう言って、からからと笑った。
俺はといえば、意外なこいつの言葉に驚いていた。
裕は早坂さんが好きなんじゃないの?
俺にやめとけと言ったのは、好きだから?
好きな人が俺とかぶるのは、嫌だから?
夏の暑さ故の汗とは別の、しょっぱい汗が俺の頬を伝った。
「……航?大丈夫かよ、青い顔してんぞ?」
「え?」
裕がまた、俺の顔を覗き込んだ。
目と目が合って、また鼓動が高鳴る。
「気分が悪いんだったら言えよ?学校までおんぶしてってやるから」
そう言うと、肩に手を置かれて引き寄せられた。
俺の肩と裕の胸が密着する。
それだけで、胸が切ないくらい苦しくなる。
裕。裕。
好きだよ。大好きだ。
言ってしまいたい。
本当の自分の気持ちを言ってしまいたいのに、怖くて言えない。
嫌われるのが怖い。
側に居られなくなるのが怖い。
変わってしまうのが怖い。
だったら。
だったら何も言わずに今までの関係でいた方がいい。
今まで通り、友達のままで。
幼馴染みのままで。
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