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戸締りをして家を出ると、月は大分登っていて、俺たちを照らしていた。
裕も一瞬空を見上げたあと歩き始めた。俺もそれに続く。
「航、いい?」
「うん?」
「手...」
裕の手を見ると、遠慮勝ちに俺の方へ差し出されていた。
あの時と同じだ。
「...もう暗いし人通りも少ないから、大丈夫だよ」
手を差し伸べない俺に、人の目を気にして躊躇してると思ったのか、裕はそう言ってしっかり腕を伸ばした。
俺も裕の方へ腕を伸ばし、掌を重ねた。
「戸惑ってたわけじゃないよ。ただ、あの時のこと思い出しちゃってさ」
「あの時?」
「俺が告白して一緒に帰った時。手を繋いで帰ったなーって」
「そうだったな!あれからもう一年も経つのか」
もっと前から付き合ってる感じがするなー!
裕がにっこりと笑った。
確かにそうだ。
幼稚園の時からずっと仲の良かった俺たちは、付き合ってからもその延長みたいなもので、幼馴染みから恋人という関係に変わっても、傍に居る時間に変わりはなかった。
そっか、そうだよな。
どんなに関係が変わってしまっても、共有する時間に変わりはないんだ。
そう思えば、過去に変わることに恐怖を感じていた自分と、恋人という関係を進展させたいと望んだ自分は、本当の変化というものを理解していなかったのかもしれない。
「でも、やっと航が俺のものになった感じがするよ!今まで、誰かに取られないかって心配になったこと何度もあった」
「ははっ、何だよそれ。誰も俺なんか取ったりしないって」
「いや、航モテるじゃん!言っとくけど、中学の時だって早坂に狙われてたんだからなっ」
焦ったようにまくし立てる裕。
ポカンとする俺。
はやさか?
早坂さんて、裕と仲良かった早坂さん?
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