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山間の小さな村。
主な生産は畜産と農作物。
村人は150人位であろうか。猫の額ほどの土地に家が犇いている。
その、少し離れた小高い丘にふたつの人影が降り立った。
辺りには小さな教会と、石で作られた墓石。
真新しい墓石が幾つか見える。
二人はその墓石に近づくと、その膝を折る。
手には沢山の花。
墓のひとつひとつに花を供え、何か呟いて祈る。
これは二人の儀式。
男と、カノコの。
男は異種族を裁く事を生業としている。
…そして、男が呼ばれる事態には、必ず幾人かの被害者がすでに居る。
自己満足。と言われてしまえばそれまでだが、罪無き者がこれ以上悲しみに囚われない様、異種族からの被害をこれ以上出さないと、亡くしてしまった魂へ誓うのだった。
「カノコ」
その中でも一番新しいと思われる、ふたつの墓の前からカノコが動かない。
…村長の妻と、その子の墓だ。
「旦那様…」
男を見上げるカノコの瞳は涙に濡れ、止める術が無い。
「止めてあげて下さい…。どうか」
やっと立ち上がり、男にしがみつく。
「解っている。」
止めなければ。何としても。
目指す同種の館はここより更に村はずれの高台に位置する。
相手は子供。とはいえ容赦できる物ではない。
人の罪は人が。
そうでない者の罪は、そうでない者が裁く。
そして我等の裁きは……死だ。
強大な力を持った者の、大きな罪。
……すでに住む場所の無い我々の、平穏の為に。
個体数が少ない我等が共存する為に。
子供だからと赦してしまっては、人は全力で我等を排除しに掛かるだろう。……遥か昔の様に。
そうなってしまってからでは遅いのだから。
同属殺しと言われようが、他の者たちの平穏の為に。
やや自嘲気味に男が口の端を歪めると、視線をやや遠くにある目的の館へ移す。
穏やかに生活していたとは聞いたがなかなか立派な屋敷だ。
村に目をやると個々の家の扉と窓は硬く閉ざされている。
人の気配があまり感じられない。
以前は多少は活気があったのだろうが、今回の事で村人も外へは必要最低限しか出てこないのだろうか。
確かに無差別に人を襲う化け物が住み着いているのだから当然といえば当然だろう。
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