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門はすでに崩れ、庭には手入れの後も無く。
目的の館にたどり着いた二人の前には、とうてい人など住んで居ない様な廃屋と呼ぶべき物が佇んでいた。
つんと、男にとってはやや芳しい。カノコにとっては顔を顰めたくなる様な匂いが鼻腔を刺激する。
…実際は顔を顰める事はしないのだが。
「旦那様」
ぎゅうとカノコが男の服の裾を一瞬だけ掴む。
「さて。お邪魔しようか。」
服を掴んだのは一瞬の事だったのは、掴んだカノコの手を男が握った為。
「はい。旦那様。」
草の伸びきった庭の歩きやすい場所を選び中へ進んでいく。
庭を進めば進むほど、鼻を突く臭いは濃くなってゆく。
この臭いは血と肉の腐敗した臭い。まさに腐臭。
そしてこの強い瘴気。
一般人ならこの臭いでまず目も開けていられないだろう。そして瘴気に当てられて気絶。弱い者であれば、命すら危ういかもしれない。
そんな中二人は涼しい顔で歩みを止めることは無い。
男は当然かもしれないが、カノコは普通の人間のはずなのに。
「さて。これからどうしようか。カノコ」
扉の大きな玄関まで進み。歩を止める。
「やはりここはノックすべきでは無いでしょうか。初めてのお宅ですし。」
飽く迄も冷静に微笑むカノコは初めての館へ招待されたかのように少し楽しげにも見える。
「そうだな。失礼があってもいけない。」
少し考えた素振りを見せるが、カノコの一般的な考えに同調し、その蔦の絡まる扉をコンコン。とノックする。
「素直に開けて貰えるかね。」
隣で背筋をぴんと伸ばしている妻に問いかける様は、これから同属殺しをする男とは思えないほどリラックスしているように見える。
「それよりもお留守だといけませんね。」
それに答える妻も、先ほどまでの憔悴ぶりは何処へやら。
この館に住んでいるかもしれないモノに対して、何も考えていないようにも見える。
ぎい
鈍い音がして、扉が少し開いた。
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