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「だあれ?」
少し開いた扉から顔を覗かせたのは黒い髪の男の子。
アルの話からすると、5年前に授かったというから5歳か。
それにしては幼く見える。
男の子らしいやんちゃそうな瞳で見知らぬ二人を不安そうな表情で見つめている。
「ここに吸血族が住んでいると聞いてね。」
男が子供の背丈に合わせ、屈んで答えると、子供はこくんと首を縦に振った。
「おじさんも、なの?」
少し舌足らずな子供らしい言葉遣い。
「ああ。中に入れて貰えるかな?」
同属と知り、安心したのか首が取れそうなほどぶんぶんと振ると、うんしょうんしょと扉を開く。
「どうじょ」
満面の笑みで中へと促すが、外にも漏れていた悪臭と瘴気の渦で、この子供の異常さが解る。
少し心配になり、カノコを見ると相変わらずの微笑み。
「おねーちゃんは、ひとなの?」
カノコに気付いた子供が不思議そうな顔をする。
「ああ。俺の奥さんだよ。」
それを聞いた子供はぱあっと表情を明るくさせ、自慢げに「ぼくのママもだよ!!」と嬉しそうに笑った。
「よろしくね?ええっと…」
カノコが名前を聞くと「ぼくハーベスト!ママはハーベィって呼ぶよ!」と片手を挙げて元気に返事をする。
こうして見ると、とても村人を11人も喰い殺した吸血鬼には見えない。
しかし辺りを見渡せば、瘴気の所為だろう、朽ちた家具。手入れのされてない窓や廊下。
………所々に付着した赤黒い染み。カビの生えた肉片…。
「じゃあハーベィ。教えてくれるかな?」
ハーベィが愛らしく首をくいっと横に傾け「なあに?」と答える。
「君のママはどこだい?」
「そこに、いるよ?」
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