22人が本棚に入れています
本棚に追加
チシャ猫がにいと笑ったような、細い月の明るい夜。
その光の中に男がひとり。
傍らに、女がひとり。
すらりとした長身の男。月の光を写し取ったような輝くプラチナの髪にはゆるくウェーブがかかっている。
その下には月の女神も平伏するであろう美しい、陶磁器でできた人形のようなすべらかな白い顔。
「眩しい」
形の良い眉をしかめ、男が一人言のように呟く。
その言葉を受け、男より頭ふたつ分ちいさな女がついと顔を男に向けた。
「旦那様、本日は珍しくお昼間に起きていらっしゃいましたから」
そのくりくりとした瞳の大きな目をちらりと見ると、"旦那様"と呼ばれた男のしかめた眉が緩んだ。
男とは対象的な黒い髪と瞳。前髪は眉の上ですっきりと揃えられ、耳の高さで切り揃えられている癖の無い髪のせいか、レトロな印象を受ける。
ふっくらとした桜色の頬、ちいさな鼻にちょこんと乗った丸眼鏡。
それがまた愛らしい。
例えるなら男が凜とした白百合。女は可憐な秋桜だろう。
「カノコ」
カノコ、と呼ばれた女は男を見上げ嬉しそうに微笑んだ。
それを見つめる男の瞳のなんと優しいことか。
「そうか。だから光が目に滲みるのだな」
そう言って、また月に視線を移し眩しそうに目を細める。
まったく今日は本当に来客の多い日だったよ……
最初のコメントを投稿しよう!