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「嫁さんが村に来なくなって、最初は心配して誰彼が様子を見に行ったりしてたんですが…ある時からみんな追い返されるようになりまして…段々と誰も行かなくなりました。」
今思えば家畜被害が始まったのもそれ位かららしい。
「君はその"悪魔"を見た事は?」
アルにツテを付けてまで依頼をして来ているのだから間違いは無いのだろうが、念の為聞いてみる。実際現場に行ってみたら餓えた野生動物でしたでは洒落にもならない。
それまで俯き加減だが、割と話をしていた村長が言葉に詰まり、顔をがばっと上げ、男と目が合った。
………目が朱い。
先程までの詰まりながらの話は緊張なんて陳腐な物なぞでは無く、これか。
「………あいました………」
目の前でこれほど人が絶望してゆく様はどうしてこんなに胸を突くのか。
赤く染まった目の端に溜まる液体が程よく日焼けした無骨な頬を伝う。
先ほどまでは感じられた生気が失われた瞳を揺らし、どこを見ているのか解らぬ表情で、震える声音でその無残な現場の様子を伝える。
「…おれが、留守にしていた時でした…。家に入るとアイツが嫁の、腹を、腹を…喰って…。おれが大声出したら、アイツが振り向いて、真っ赤な、真っ赤な目が、ら…来月には、子供も、う・産まれるのに、嫁は、嫁とガキが」
「もういい」
まだショックが大きいのだろう。大の大人が子供のような言葉の羅列を震えながら繰り返す。
最初にあった「堂々と昼間に」の話はこの男自身の事だったのか。
領主からアルへ話を付けた矢先の出来事だったらしい。
この手の話は大体が民から領主、領主から異種の力のある者への依頼が多い。
アルは各地の領主とのツテも多く、それで今回俺に話がきたのだろう。
村長の話によると、村人のこれまでの被害者は10人。
…いや、産まれなかった子を入れると11人か。
「確かに子供でした。でもアレは人の子じゃあない。赤い目、口に生えたキバ。…あれはあの吸血鬼の子に違いありません。」
少し落ち着いた村長の言葉。
人と異種との混血児。
男は目を伏せ、疲れた様に一息吐くと「今夜にでも発つ」と、請け負う意味の言葉を告げた。
安心したのかため息と共に村長の表情が緩んだ時、賑やかな声が玄関から響いてきた。
話を聞かれないようにと、カノコを連れ出していたアルが戻ってきたのだろう。
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