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「私も、行きます。」
凛とした表情で視線を男から反らすまいと、真っ直ぐ見つめるカノコ。
その視線を正面から受け止め、男は「駄目だ」と強く言った。
いつもは『仕事』以外でも常に一緒に行動をしていた。
しかし今回は駄目だ。
カノコに、彼女には見せたくは無い。
「嫌です。連れて行ってください。」
しかしカノコも頑として譲らない。
いつも笑顔を絶やさない、愛らしい口元をへの字に曲げ、優しいカーブを描く眉はレ点の様。
ご大層に眉間には皺まで作り、彼女は愛しい旦那様である男に詰め寄る。
「駄目だ。」
「旦那さ「今回は駄目だ。カノコ。解りなさい。」
更に縋る彼女に、まるで幼子に言い利かせるかのように腰を目線まで落とし、諭す様に伝える。
すうと口を開き、何かを言い掛けるカノコであったが、一瞬息を止め、ふうと吐く。
「旦那様はお強い。この世の、どんな生き物よりも。」
これほどまでに男が同行を拒否するのは、今回の内容がよほど易しいか厳しいかのどちらかだと思ったのか、諦める素振りを見せる。
....
「ですが、どんな時でもお側に置いて下さるというお約束は嘘ですか…?」
やや潤んだ瞳で男を見つめる。
諦めたのではなく、どうやら戦法を変えたらしい。その効果は抜群で、男の目線がカノコから逸れた。
「もし、万が一、旦那様のお力が尽きてしまわれた時、旦那様のお力になれるのはカノコだけです…。カノコじゃなくては嫌です。」
ひ…卑怯だ。と男が思ったかは判らないが、カノコの大きな黒曜石の瞳からは今にも白玉が零れ落ちそうになっていた。
..........
「どんな事実があっても、カノコは大丈夫です。ですから、どうか…!」
「カノコ…」
彼女なりに何か悟ったのだろう。その上での覚悟。
男はふうと深いため息を吐き、その小さい頭を抱き寄せた。
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